1,000m級の山々が連なる神奈川県有数の山岳地域、丹沢。関東在住の登山者が1年を通して訪れる人気のエリアで、東西南北に人気のピークが佇み、眺望、動植物の営み、豊かな自然の数々など、一度足を踏み入れれば登山から見える山の魅力に触れられます。そんな丹沢・神奈川県の最高峰にして深部に聳える名峰、蛭ヶ岳は、丹沢の美しさが詰まった山頂です。今回は丹沢の玄関口のひとつ、大倉から目指すルートをご紹介します。
蛭ヶ岳とは
標高1,673m、丹沢の奥深くに位置する蛭ヶ岳は、丹沢の山々を登る上で、名実共に「最後の砦」とも呼ばれるピークです。
その最たる理由はアプローチの困難さにあります。
主に1泊2日を想定したルートが大半、最短ルートでも片道4時間以上を要するので、休憩時間を入れれば10時間程度を見積もるので、日帰りで歩ける丹沢の山々の中では長い時間を必要とします。
そのため天候が安定している時期、時間帯を見定めて登る必要があり、稜線を歩いて目指すルートの場合は特に注意が必要です。
遠方からもそれと分かる突き出したような山容を持ち、丹沢主脈と呼ばれる塔ノ岳方面からの稜線から眺める蛭ヶ岳は、地球最後の楽園であり終焉の地を思わせる神秘さを放ち、山域各所から見ると「いつかはあの山頂に」と惹き込まれるオーラを持っています。
富士山から山域の山々、箱根、市街地の眺望に優れ最高峰らしい景色があり、山頂に至る労苦が報われる世界が
広がっています。
山頂にはシンボルでもある通年営業の蛭ヶ岳山荘が鎮座し、1泊2日、もしくは早朝からの日帰りが前提である蛭ヶ岳登山にとって必要不可欠な存在となっています。
今回のおすすめルート
今回は丹沢の中でも随一の登山者数を誇る人気エリア、表丹沢の玄関口のひとつである大倉から登るルートをご紹介します。
大倉からは塔ノ岳まで伸びる標高差約1,200mの大倉尾根を登り、塔ノ岳から蛭ヶ岳までは主脈と呼ばれる稜線を歩きます。
大倉尾根までが蛭ヶ岳の前半戦で、後半戦となる主脈は丹沢の眺望に力をもらいながら、削られゆく体力でゼェゼェと山頂を目指します。そして、登った後はこのルートを下るのかと思うとやる気が根こそぎ持ってかれそうになるので、下山のことは考えないようにして登るのがコツです。
なかなか近づいている気がしない山頂、着くかと思ったらアップダウンの繰り返しと、まるで登山者を試すかのようなルートですが、登山口に戻った後の達成感は想像を越えるものがあり、丹沢で他の山に登ったときは、これまでとは違う蛭ヶ岳を眺められるというご褒美が待っています。
駐車場とトイレ
登山口である大倉には有料駐車場が幾つかあり、8時開場の戸川公園駐車場、24時間利用可能の民営駐車場が主に利用されています。蛭ヶ岳登山の際は24時間利用の民営駐車場という選択肢になります。
トイレは大倉バス停そばにあるので、登山直前に済ませておくことができます。
蛭ヶ岳山荘
蛭ヶ岳山頂に位置する通年営業の山小屋です。
宿泊のほか、休憩や軽食なども対応しており、ひるカレーと呼ばれる大人気のカレーは、疲れ果てた登山者の身体に染み渡り、元気をもらえるメニューです。※提供は10時30分から13時30分です。
個人的にはコーラの取り扱いがあることが嬉しく、登山中では劇薬とも呼ばれる炭酸と一度飲んだら止まらない甘みを備えたコーラは、夏場に飲めば気分爽快、やる気に満ち満ちて歩行にも力が入ります。
私は宿泊をしたことはないのですが、丹沢最高峰から見る夜景が格別であることは間違いなく、宿泊であれば檜洞丸方面から大倉へ下山(もしくはその逆も可能)という、丹沢に来たら一度は登りたい計画を立てられます。
行程
コースタイム | 体力レベル | 技術レベル |
13時間25分 | ★★★★ | ★★✩✩ |
標準コースタイムでは1日の行動時間の基準である8時間を越え、健脚者でも10時間は見積もる必要がある長時間のルートです。蛭ヶ岳山荘で宿泊すれば余裕を持った計画を組めるので、自身のコンディション、技量に合わせて日帰り、小屋泊を選ぶと良いです。
塔ノ岳まで登る大倉尾根は明瞭な登山道で迷うことなく安心して登れます。
反面、これでもかという急勾配が続き、初めて登る方は「まだ続くの?」と心折れそうになるかもしれません。
大倉尾根も花立山荘を過ぎれば塔ノ岳を間近に目視でき、30分ほどで山頂に到着です。
塔ノ岳を過ぎれば若干の上り下りはあるものの、主脈は大倉尾根ほどの体力は必要ないので、ここまでの苦労を帳消しにできる稜線歩きを楽しめます。
丹沢山山頂は眺望は塔ノ岳ほどではありませんが、静かで休憩にピッタリ、山ならではの静寂の時間を過ごせるおすすめの山頂です。
丹沢山を過ぎると今回の核心となる区間に突入します。
幾度かのアップダウンを繰り返し、徐々に迫る蛭ヶ岳に逸る気持ちを抑えながら歩を進めます。
この時点で体力、足腰は消耗しているので、下りでの転倒、滑落には要注意です。
最後の難所は鬼ヶ岩からの下り、そして登り返し。登り返しを終えれば、待ちに待った蛭ヶ岳の山頂が迎えてくれます。
前半:大倉から塔ノ岳へ
大倉をスタートし、登山道へ向かいます。日の入りまでに下山する場合は、日の出前の出発がマストです。
明るい時に撮影。分岐を左へ
本格的に登山道に入ります
勾配は徐々に急になり、天まで続くのかと思うほどの登りが牙をむき出しにして待っています
大倉尾根の中間地点である堀山の家。ここで一休みするのが良いです
堀山の家を過ぎ、花立山荘直下で現れる長い階段。ここが踏ん張りどころです
寒い夜の歩行から解放される瞬間である日の出。眺望が開けます
花立山荘に到着。ここまで来れば塔ノ岳まで30分ほど
花立山荘を過ぎ、塔ノ岳へ
ここまで来ればあと少し
塔ノ岳に到着です
蛭ヶ岳を目視。気が遠くなりそうな距離を感じさせます
行動食で補給する間、しばし眺望を楽しみます
塔ノ岳で休んだら次の目的地、丹沢山へ
アップダウンはありますが、歩きやすい稜線が丹沢山まで伸びています
途中にある休憩スポット、竜ヶ馬場
丹沢山まであと少し
丹沢山に到着です
丹沢山にある通年営業の山小屋、みやま山荘
山頂付近は広場になっていてベンチもあるので、ここで軽く休憩を入れて、蛭ヶ岳への核心部へと突入します
丹沢山を過ぎて間もなくアップダウンが始まります。遠くに見える蛭ヶ岳まで距離を感じますが、景色に力をもらいながら歩を進めます
気持ちの良い稜線です
蛭ヶ岳が近づいてきました
富士山と右手には檜洞丸が見えます。惚れ惚れする眺望
蛭ヶ岳登山で最後のポイント、鬼ヶ岩。ここを下って登り返せば山頂です
急な岩場の下り。慎重に
長かった往路も終わりを迎えようとしています
蛭ヶ岳山荘。そばに山頂があります
山頂に到着です。ヘトヘトですが、感動で疲れを忘れます
見事な眺望です
右手には宮ヶ瀬湖が見えます
ふと我に返り「帰らなくちゃ」というのが、日帰り蛭ヶ岳登山の辛いところです。来た道を戻ります。帰りも大変ですが、日帰りでこれだけの登山をさせてくれた丹沢に感謝。そしてこの日は夜明け前から諦めず歩いた自分を褒めながら下山しました。
下山後のおすすめ:湯遊三昧 湯花楽 秦野店
丹沢へのアクセスで利用される小田急線沿線では、鶴巻温泉駅や東海大学前駅などで下山後に立ち寄れる温泉があります。今回ご紹介するのは、大倉登山口から車で10分の場所にある、湯花楽です。
個性ある風呂が内湯、露天に設置されていますが、中でも登山後に必ず入りたいのは、高濃度人工炭酸泉で、蛭ヶ岳登山で限界まで冷え切った身体が芯まで温まります。
館内は落ち着いた雰囲気で、ついそのまま眠りたくなるほど。サウナや食事処もあるので、登山後の疲れを癒やして帰路につけます。
蛭ヶ岳登山で最高峰に登る感動を味わおう
神奈川県最高峰にして、丹沢最高峰の蛭ヶ岳は、山深くに位置して登頂に時間を要する登り応えのある山です。
いずれのルートも一筋縄ではいきませんが、苦労に比例して沢山の感動と発見をくれ、気軽に楽しめるハイキングとはまた違う魅力に溢れた登山を楽しめます。
蛭ヶ岳に登れば、きっと新しい登山の素晴らしさと出会えます。丹沢最高峰に登って、最高峰に登る感動をぜひ味わってください。