【ドローンの飛行許可取ってますか?】山岳飛行時の手続きとガイドライン(日本百名山・中部山岳など)

コラム

登山の内容からは少々逸脱しますが、ここでは個人での山岳風景の撮影を目的としたドローン飛行の際に必要な、土地の所有者への届出や飛行時のガイドラインを抜粋してご紹介いたします。

記事後半では「日本百名山が位置する公園リスト」等も掲載しておりますので、ドローン飛行以外でも、山行計画時の現地情報の収集等でご参考頂けると幸いです。

取材および調査の結果、2021年6月時点において、全ての山域を網羅する統一的なガイドラインや計画準備のためのフローは確認されておりません。

山域によっては、土地所有者でもドローン飛行に対する明確な態度を整備中であるがゆえに、実際にドローン飛行をさせる場合は個別に土地所有者や管理者等への直接確認・届出、調整が依然として必須であると感じられます。

また、山岳地域は希少な動植物が数多く存在する場所であるため、ドローンの飛行が自然へ及ぼす影響についても否定はできないでしょう。
それと同時に飛行山域の登山者状況等にも十分に配慮しながら、事故の防止にも努めなくてはならない等、各方面への配慮が必要です。

目次

山岳地域でドローンを飛行させるために必要な準備(概略編)

飛行高度により「航空申請および許可」の有無はあるものの、2021年6月現在、準備としては大きく分類すると以下3つとなります。

  1. 航空許可(地表面から150m以上での飛行となる場合)
  2. 土地所有者への届出等が必要か確認、ほか飛行にあたり必要な事項の確認
  3. 飛行山域でのドローン飛行に関するガイドライン・きまりの確認

ここでは、主に「2」と「3」に焦点を絞って解説をいたします。

航空許可(地表面から150m以上での飛行となる場合)

※「1. 航空許可」については、以下の記事をご参考下さい。航空局への申請等の手順が詳しく書かれております。

経験者語る北アルプスでドローンを飛行させる時の許可 | ロックンロール登山 (rock-tozan.net)

土地所有者への届出等が必要か確認、ほか飛行にあたり必要な事項の確認

少し込みいった話になりますが、民法では「土地所有権の範囲」が「法令の制限内において、その土地の上と下にも及ぶ」とされているようです。

そのため、ドローンを山岳地域で飛行させる場合には、操縦者が立ち入る範囲および飛行地域の土地の所有者等にまず飛行の旨を届け出る必要があると一般的に言われております。

登山の対象となる山岳地域の所有者は大きく分類すると「林野庁」と「それ以外(自治体もしくは民間・個人)」になります。よって、飛行山域によっては、各「地方森林管理署」(林野庁の関係機関)への入林届提出のみで調整が効く場所もある一方で、所有者次第では、「そもそも届出等が必要かどうか」といった確認や、調整等の範囲が拡がる可能性があります。

飛行山域でのドローン飛行に関するガイドライン・きまりの確認

自然公園は「国立公園」「国定公園」「都道府県立自然公園」

自然公園(※)として管理されている場合は「環境省」および「都道府県」等の管理者からガイドラインが出ていることもあります。
また、上記公園管理者とは別に、自治体(市町村)や環境に関する協議会等からのガイドラインが出ているケースもあります。

※国立公園(国が指定し、国が管理)、国定公園(国が指定し、都道府県が管理)、県立自然公園(都道府県が管理)の3種類。市街地等にある一般的な公園(都市公園)とは異なります。

山岳地域でドローンを飛行させるために必要な準備(パイロット編)

所有者への届出

まず、山(森林)は国が所有している「国有林」と、それ以外が所有している「民有林」の大きく2つに区分されています。

国有林の場合は、担当の森林管理署まで入林届の提出が必要

国有林

国(林野庁)が管理している範囲です。


下部組織として全国で7カ所の森林管理局が設置され、さらに各森林管理局が担当する形で地方森林管理署が設置されています。
例えば、南北アルプスや八ヶ岳といった山域が含まれる長野・富山・岐阜・愛知県を担当する中部森林管理局内には、富山森林管理署、北信森林管理署、中信森林管理署、東信森林管理署など計11の森林管理署があります。飛行エリアを担当する森林管理署を調べ、事前に「入林届」を提出し、受理される必要があります。

※各森林官署への「入林届」提出に係る手続き詳細は、以下記事の『入林届けの出し方』項をご覧ください。
経験者語る北アルプスでドローンを飛行させる時の許可 | ロックンロール登山 (rock-tozan.net)

民有林

国有林以外の森林となります。


都道府県や市町村が所有する「公有林」や個人や法人が所有する「私有林」が含まれています。
電話取材の結果「ドローン飛行の届出等」について、所有者側での明確な見解が得られない山域もあるため、所有者側へ無理難題とならないよう配慮が必要と思われます。

  A. 国有林         B. 民有林         B. 民有林
国(林野庁)公有林(都道府県有林、市町村有林)私有林(民間企業、寺社、個人など)

このように、単純に「土地所有者への届出」=「森林管理署」となる訳ではなく、飛行計画をしている場所の性質により取扱が変わってくるのが実情です。

例えば、登山者憧れの北アルプス「雲の平」付近で飛行をさせたい場合、この飛行区域は全域「富山森林管理署内の国有林」であるため、事前の届出(入林届提出)が必要となります。
一方で、例えば首都圏郊外の百名山、丹沢「表尾根」付近飛行をさせたい場合、このエリアは「国有林」と神奈川県管理の「公有林」が混在しています。「国有林」範囲は、東京神奈川森林管理署への届出、「公有林」は神奈川県への届出(「そもそも届出が必要かどうか」の確認から)が必要になります。

「国有林」と「民有林(公有林・私有林)」の判別は?

結論から申し上げると、「国有林」の範囲は全国で統一されている「森林計画図」で把握が可能ですが、「民有林」は統一されていないため一括での把握は非常な困難な状況です。(※都道府県によっては、「公有林」を地域森林計画位置図という形で公開している場所もあります。)したがって、

  • 「国有林」であるかの確認…林野庁公開「森林計画図・施業実施計画図(2万分の1)」
  • 「民有林」のうち「公有林」であるかの確認…地域森林計画図や都道府県市町村に確認
  • 「民有林」のうち「私有林」であるかの確認

の順に、徐々に範囲を絞りながら調べていくのが現時点では合理的と思われます。

「国有林」であるかの確認


林野庁の公式ホームページから都道府県毎の森林計画図(国有林の範囲が記載)の閲覧・ダウンロードが可能です

飛行させたい山域を絞る 
出典:林野庁webサイト

PDFファイルの数が多いのですが、一番右の施業実施計画図「2万分の1」ファイルに大まかな範囲が掲載されております。



基本図(5千分の1)」はかなり細かいため、右端の「施業実施計画図(2万分の1)」を利用
出典:林野庁webサイト
同じ森林管理署内でも多数の地図が存在している 
出典:林野庁webサイト

実際に地図を展開していくと、相応の労力を要すると思います。

特に、ドローン飛行に適する山頂や山頂間縦走路の設けられている尾根筋は森林管理署等の管轄境界であるケースが多いため、場所によっては、複数の森林管理署まで入林届で届出をする必要があります。

以下では、北アルプス・中央アルプス・南アルプス・八ヶ岳を中心とする山岳および縦走路から抜粋し、山名から担当の森林管理署等を以下の通りまとめております。ご参考としてご利用いただけると幸いです。

※実際の飛行計画の際には、操縦者による関係機関への確認を必ずお願いします。

山岳地域でドローンを飛行させるために必要な準備(マナー・ガイドライン編)

公園管理者や都道府県や市町村、民間団体等からガイドラインが出ている場合があります。
地域によりルール等が異なるため、飛行させたい地域への個別の確認が必要です。

公園管理者からガイドラインが出ている場合

登山の対象となる山岳地域は「自然公園」に含まれているケースがあります。
冒頭で述べたとおり、自然公園は「国立公園」「国定公園」「都道府県立自然公園」に分類されており、国立公園の場合は環境省の「自然環境事務所」(全国12か所)の現地機関※が、国定公園と各都道府県立自然公園の場合はその都道府県の担当部署が管理をしています。

※国立公園の管理事務所および自然保護官・管理官事務所など

中部山岳国立公園の玄関口のひとつ、沢渡バスターミナル

例えば、北アルプス(中部山岳国立公園)や頚城山塊(妙高、火打など、妙高戸隠連山国立公園)、上信越高原を担当している「信越自然環境事務所」からは、以下のガイドラインが出ています。

■希少な野生生物の生息・生育する区域においての使用は控えてください。

■プライベート空間や利用者が集中する場所での使用は控えてください。

■事前に飛行させる場所を担当している国立公園管理官事務所・自然保護官事務所等にお問 い合わせください。環境省では、ドローンを飛行させることについて土地・施設の所有者や管理者の許可を取っているか否かを確認させていただきますので、事前に飛行させる場所を担当している国立公園管理官事務所・自然保護官事務所等にお問い合わせ願います。なお、環境省が所管している土地(上高地、室堂等)においては、ドローンの飛行を禁止している場合があるほか、ドローンを用いた撮影を行う場合には撮影計画書の提出を求めている場所があるなど、国立公園の管理上必要な個別の措置を要する場合があります。

『国立公園内におけるドローンの使用について(2018年09月21日)』

また、一例として、北関東地区で人気の「赤城山」周辺は「県立赤城公園」(群馬県条例による『自然公園的な性格を持った県立公園(群馬県ウェブサイトより)』)とされており、以下のようなドローン飛行に関するガイドラインが出ております。

■利用ガイドライン:https://www.pref.gunma.jp/contents/100201473.pdf
■飛行区域について:ドローン飛行禁止区域 (pref.gunma.jp)

群馬県立赤城公園『公園利用者のみなさまへ』

このように、自然公園(国立公園・国定公園・県立自然公園)の一部の山域の場合、その公園管理者からのガイドラインが出ていることがありますので、事前によく確認しておく必要があります。

自治体や関係団体等によりガイドラインが出ている場合

地元の自治体等からガイドラインやコメントが出ている場合もあります。以下、例えば長野県中部の伊那市、それから長野県諏訪地方の「霧ヶ峰(最高峰:車山1,925m)」を例に挙げます。

■例:自治体より飛行についてコメントが出ている場合

“動植物をとることやドローンの使用、ペットの持ち込みは原則禁止です。”

※伊那市『南アルプスに登山される皆様へ【入山注意】』より
霧ヶ峰最高峰の車山付近は観光化されている

■例:霧ヶ峰及び白樺湖周辺

“霧ヶ峰及び白樺湖周辺の地域については、小型無人機ドローンの飛行に係るガイドラインに基づいて管理を行っており、個人やグループでのドローン飛行は届け出制となりました。”

※霧ヶ峰自然環境保全協議会『霧ヶ峰等におけるドローンの⾶⾏ガイドライン』より

これらの現状を考えると、ドローン飛行の際には、飛行山域の自治体および関連する山岳関連の環境団体等に個別に確認し、トラブルが発生しないよう配慮する必要があると思われます。

以下では、日本百名山の周辺自治体、ならびに自然公園(国立公園・国定公園・県立自然公園)として指定されている山域の場合、その自然公園名を山名毎に取りまとめております。現地情報の確認の際にご参考いただけると幸いです。

※実際の飛行計画の際には、操縦者による関係機関への確認を必ずお願いします。

おわりに

初秋の北アルプスの核心部・裏銀座 人間が必要な物資供給もヘリが無いと困難
ヘリに代わるボッカ手段としてドローン空輸の可能性は大きい 

空中からの雄大な山岳風景を通し、わたしたち人間側では感動や幸福を感じ取れる一方、少なからず自然界への影響も十分に懸念されます。

山域毎に統一された飛行ガイドラインがない中、現時点では、自然界からの視点も含めた山に対する総合的な理解をもち、必要な箇所への確認・届出、入念な飛行計画、周囲への配慮、事故防止の徹底等を行ったうえで、目的を明確にした上での飛行が必要であると思われます。