【八ヶ岳・本沢温泉】日本最高所の野天風呂を目指す~残雪の峠越えと天狗岳登山のコースレポート~

関東甲信

環境省の「温泉利用状況(2020年度)」によると、日本全国の源泉総数は27,970箇所、温泉地数は2,934箇所とされており、温泉はわれわれ日本人の癒しの場として古くから親しまれてきました。

その入浴方法も多岐にわたり、露天風呂、室内風呂、水風呂、ジャグジー・・・など種類は豊富で、登山後の汗を流すルーティンとして、入浴は多くの登山者にとっても欠かせないものでしょう。

本記事では、このような「温泉」でも花形ともいえる「露天風呂」にスポットをあて、日本最高所にある秘湯「本沢温泉・雲上の湯」を目指し、北八ヶ岳の名峰「天狗岳」と夏沢峠を越えたコースのレポートをご紹介いたします。

目次

概要:”本沢温泉・雲上の湯”&”天狗岳”

渓谷沿いの野湯「本沢温泉・雲上の湯」。背後には硫黄岳の荒々しい姿が見える。

本沢温泉・雲上の湯は、赤岳を始めとする標高2,000~2,900mの山々で構成される八ヶ岳連峰中部の硫黄岳(2,760m)の麓、標高2,150mに位置する野湯になります。

通常のアクセスは、八ヶ岳東麓の小海側(本沢温泉入口)から約1時間となりますが、今回は八ヶ岳西麓の桜平から八ヶ岳の稜線を越え、この秘湯を目指していきたいと思います。

https://www.yatsu-honzawaonsen.com/

森林限界を超えている根石岳と背後に姿を見せる天狗岳

また、今回のコース上の最高地点となる天狗岳は、八ヶ岳を大きく南北に分けた際の「北八ヶ岳」最高峰となり、付近一帯は森林限界上のハイマツ帯の登山道が続いています。その姿は丸みを帯びた双耳峰(西天狗岳2,646m、東天狗岳2,640m)であり、赤岳や硫黄岳といった八ヶ岳の核心を成す山々に劣らない雄姿がみられます。

http://iou.style.coocan.jp/natsuzawa/index.html

http://www.o-ren.net/

http://iou.style.coocan.jp/neishi/

アクセス

【本沢温泉入口】

「中央道・須玉IC」ないし「中部横断道・八千穂高原IC」より国道141号、松原湖入口から本沢林道を走行。

【桜平登山口】

「中央道・諏訪南IC」より八ヶ岳ズームライン、エコーライン経由。

尖石考古館西から山岳道路を走行。唐沢鉱泉方面との分岐を右に入り、桜平方面へ林道を約30分。

駐車場は登山口に最も近い「上」、登山口から600mほど下った「中」、同じく3.5㎞下ったところにある「下」の3か所の駐車場(無料)があります。

取材日は5月上旬の週末でしたが、早朝時点でも「上」の駐車場にスペースがありました。

コース紹介

桜平登山口~オーレン小屋

標高約1,900mに位置する桜平登山口の朝はまだまだ冷え込んでおり、上着は欠かせません。林間の駐車場になりますが、鳥のさえずりや市街地では感じられない森の匂いに満ち溢れています。

桜平のゲートをくぐると、30分ほど急坂の林道を夏沢鉱泉までのぼっていくことになります。

シラビソ林と朝陽のまぶしさが、清々しい山間の朝を引き立てています。

早朝の谷筋は、まだまだ冷えた空気に包まれる

木陰に茶色の小屋が見え始めると、まもなく夏沢鉱泉に到着となります。

ここは登山届や売店もある登山拠点となるため。ハイシーズンの朝は多くの登山者の姿で賑わっていますが、5月初頭の今日は登山者の姿もまばらです。

夏沢鉱泉から20分ほど進み、次の山小屋であるオーレン小屋(約2,250m)の発電施設を過ぎたあたりから、徐々に登山道上の雪が増えてきました。

朝方はまだまだ冷え込むため、雪も比較的締まっており、軽アイゼンやチェーンスパイクが効果を発揮します。

夏沢鉱泉から標高差で約200m、1時間ほど歩くと、まもなくオーレン小屋に到着となります。

オーレン小屋~東天狗岳

チベット仏教由来のタルチョが掲げられているオーレン小屋

オーレン小屋からは「夏沢峠経由での硫黄岳方面」「赤岩の頭経由での硫黄岳方面」「根石岳方面」の3本の登山道が分岐しておりますが、今回は山の静けさが特に楽しめる「根石岳方面」に進んでいくことにします。

根石岳の後ろには西天狗岳が姿を見せる

引き続きシラビソ林の圧雪路を1時間弱登ると、標高2,580mの箕冠(みかぶり)山の小ピークに到着します。ここから先は一気に視界が開け、森林限界上のハイマツ帯の登山道となります。鞍部には根石岳山荘が、その背後には根石岳(2,603m)と東・西天狗岳の姿を見ることが可能です。

山頂まではもう少し

東天狗岳直下は、一部三点支持が必要な簡単な岩場を通過しますが、登り始めて15分ほどで山頂に到着します。3~4畳ほどの比較的コンパクトな山頂からは、南は硫黄岳、横岳、赤岳といった八ヶ岳核心部の連山を、北は霧ヶ峰から北八ヶ岳に至るパノラマを見渡すことができます。

東天狗岳より北八ヶ岳方面を望む

東天狗岳直下、本沢温泉分岐

雪に埋もれていた、東天狗岳直下から本沢温泉方面の登山道

ここで問題が発生しました。東天狗岳と根石岳の鞍部にある分岐から本沢温泉へ進もうとしましたが、どうやら登山道が雪に埋まっているようです。稜線は夏道が見えているといっても、まだまだ残雪により閉ざされている登山道もあるため、この時期の山は油断はなりません。

夏沢峠までの八ヶ岳縦走路は、「北八ヶ岳らしい」林間の道となる

ここは一度箕冠山まで登り返し、1時間弱の夏沢峠を一旦目指すことにします。

朝は滑り止めにより歩きやすかったトレースも、太陽が高くなると雪が溶け始め、シャーベット状の歩き辛い道が続くことになります。

夏沢峠

シラビソの森を抜けると、まもなく夏沢ヒュッテのたたずむ夏沢峠に到着します。

小屋明けシーズン前のため、南北八ヶ岳を分ける峠も今はひっそりとした雰囲気に包まれています。

大回りのために登山計画はかなり押していますが、折角なので平らな石を探し、本日初めてゆっくりと腰を下ろすことにします。

夏沢峠

ここで今日2つ目の問題が発生します。

本沢温泉・雲上の湯はもちろん入浴料が必要となりますが、ここまで来てまさかの財布が見当たりません。

本沢温泉での入浴云々の問題もありますが、それ以前に広大な八ヶ岳山中での「宝探し」となるともはや手に負えません。

山の中で緊張感を味わうことはもちろん過去にもありますが、この手のケースによるものは初めてです。全身を焦燥感が駆け抜けると同時に、頭は白くなり胸の鼓動が高鳴ります。

前日の夜、眠い目をこすりながら機械的に装備を違うザックに入れ替えたときに落としたのか、車に忘れてきたのか・・・、八ヶ岳の「磐長姫(いわながひめ)」に献上しているのか・・・。これにはさすがに参りました。

一旦、お茶とおにぎりを食べながら心が落ち着くのを待つことにします。

夏沢峠~本沢温泉

30分弱、峠でフリーズしていましたが結論が出ました。

いくら騒ごうも財布が勝手に羽をはやして手元に戻るわけではない。最悪は高い入山料と思うしかないと・・・。ということで、心のモヤモヤはありますが、一度本沢温泉まで下りせめてその様子を拝むことにします。

それでも人は歩いて下るほかない

夏沢峠から本沢温泉へは、樹林帯の中を約300m(コースタイムで約1時間弱)下っていくことになります。

腐りかけてすべりやすい残雪の中、つづら折りのトレースをたよりにゆっくりに山を下ります。トレースは比較的明瞭ですが、残雪の影響もあり時折前方ふさぐ枝をかき分けながら進む箇所もありました。

250mほど下ったあたりから、徐々に温泉特有の硫黄臭が漂ってきます。登山道をふさぐ簡単なブッシュをかき分けると視界も広がり、まもなく本沢温泉に到着となります。

道標「露天風呂入口」

「雲上の湯」は、硫黄岳から流れ出る沢沿いに位置しており、本来ならば八ヶ岳稜線や沢の音を聞きながら入浴を楽しむことができます。脱衣所のような洒落た場所はありませんが、水着の着用も可能となります。どうやら木の風呂蓋を自分で開けてから入浴するようです。

再度峠を越えて桜平へ

さて、もやもやとした色々な気持ちを抱えながら、先ほど下ってきた道のりを足取り重く夏沢峠まで戻っていくことにします。5月ともなると雪に反射された昼下がりの日差しは強く、額には汗がにじむ陽気となっています。

本沢温泉から1時間ほど登り返し、頭上の開けた視界に夏沢ヒュッテの姿が見えるようになると、間もなく夏沢峠に到着、今回の旅も間もなく終わりを告げることになります。

残るは最大の懸念事項が解決できるのか、記事読者の皆様には全く関係のない個人的な問題が残っているだけとなります。

おわりに

本沢温泉の上部に位置する、南八ヶ岳核心部の山々

以上、残雪の残る天狗岳登山と、一度は訪れてみたい日本最高所の野天風呂「本沢温泉・雲上の湯」を峠越えで目指した登山コースのご紹介でした。取材日は5月上旬でしたが、この時期は残雪の状況が大きく変わる時季となります。皆様もぜひ、安全登山で訪れてみてはいかがでしょうか。