遍路道(へんろみち)
四国には空海(弘法大師)ゆかりの仏教寺院が数多く残っていますが、その中でも八十八ヶ所ある霊場を結んでいるのが「遍路道」です。
その全行程は1400kmにおよび、徒歩による歩き遍路で全て巡拝すると約45日かかるとされています。
札所とも呼ばれている八十八ヶ所ある霊場への道は、標高が高い所にあったり険しい山道を通る事も多いのです。
そして特に厳しい登りの遍路道のことを、お遍路さんをころげ落とすような意味で「遍路ころがし」と言われるようになりました。
愛媛県における遍路ころがしは、標高750mにある第60番札所「石鉄山横峰寺」への道です。
現在では横峰寺近くまで有料の林道が開通して自家用車やバスで気軽に参拝できますが、かつては険しい遍路道を登る必要があったのです。
今回その横峰寺まで徒歩で巡拝する2つのルート、湯浪と虎杖をご紹介します。
横峰寺
現在の遍路道「湯浪」から横峰寺へ
横峰寺へ巡拝する遍路道で現在一般的に利用されているのが、愛媛県西条市小松町にある「湯浪」です。
登り口の湯浪までは整備された道があり自家用車で向かうことができて、綺麗なトイレもあります。
湯浪から横峰寺までは約2.2kmで標高差450m、1時間くらいの歩行時間です。
この湯浪ルートの序盤は渓谷沿いの道を歩きます。
川から聞こえてくる水の音と、時折流れてくる涼しい風がとても気持ち良いですよ。
登り口から階段が続く道ですが、かなり整備されていて分岐点もないので安心して歩くことができます。
このような橋を数ヶ所渡っていきます。
道の途中には横峰寺までの残り距離が表示された看板がありますので、それを目印に足を進めましょう。
湯浪から1km程進むと渓谷から離れて本格的な登り道になります。
傾斜が少し急になりますがここまで来ると残り半分ぐらいの距離なので、時折休憩しながらゆっくり向かいましょう。
この湯浪からの遍路道を歩いて気付くことは、道の上に草や落石などがほとんど無くて、とても歩きやすい道ということです。
このあと紹介する虎杖から向かう道は、枯草や倒木などでかなり荒れた状態になっていました。
登山道や遍路道は定期的に人の手によって整備する必要があることが実感できるのです。
そして横峰寺まで残り400mの案内板が見えてきたら、長くまっすぐ続く階段の先に山門が見えます。
山門の先にはトイレや休憩所や納経所があって、手水舎の横にある階段を登れば本堂に到着です。
標高750mの山奥にあるとは思えない立派な寺院で、本堂の本尊は大日如来。
お釈迦さまの誕生日である旧暦4月8日には花まつり(灌仏会)が行われており、護摩法会や甘茶の接待で横峰寺を訪れる方をお迎えします。
この横峰寺は愛媛県内でも有数のシャクナゲの名所で、5月上旬から下旬にかけて約500本のシャクナゲが境内をピンク色に彩ります。
巡拝お疲れ様でした。
かつての遍路道「虎杖」から横峰寺へ
では横峰寺へ巡拝するもう一つの遍路道入口「虎杖(いたずり)」をご紹介します。
虎杖は湯浪と同じ西条市小松町にありますが、この虎杖はかつて石鎚村だった場所です。
1955年(昭和30年)に小松町と合併して石鎚村は消滅しており、その小松町も2004年(平成16年)に2市2町の合併により西条市となっています。
かつての石鎚村は林業が盛んであり、西日本最高峰である霊峰石鎚山の登山口としても多くの登山者が訪れていました。
明治期には1000人以上が住んでいたようで、登山客やお遍路さんを出迎えて賑わっていた名残が道路沿いに今でも残っています。
横峰寺へ向かう入口「虎杖」の右にある建物はかつての農協跡です。
この周辺には役場や森林組合、石鎚小中学校(昭和52年閉校)がありました。
この虎杖から横峰寺までは約3.6kmで標高差450m、湯浪からと比較すると距離が長い為1時間30分から2時間程度かかります。
登りはじめから1kmぐらいはかなり道が荒れていて、分岐する個所もあるので注意が必要です。
ただ要所にロープが張られており、横峰寺までの残り距離表示看板がありますので、それを目印に進んでいきましょう。
その後なだらかな道が続くのですが、この虎杖から横峰寺に至る遍路道には階段が一切ありません。
湯浪からの遍路道と比較すると全く違った光景が広がっていますが、実はこの山奥にある遍路道にかつて集落がありました。
千足山村宇郷という集落があったようで、千足山村は石鎚村になる前に存在した明治から昭和にかけて存在していた村です。
途中には数多くの石垣が残っていて、以前は多くの人々がここで生活していたのでしょうね。
林業で生計を営んでいた時代の流れを感じさせられます。
木材を運搬する為には広い道が必要で、傾斜が緩いスロープ状の運搬道が今では遍路道として残っているのです。
その虎杖からの遍路道も今ではほとんど利用されていないようです。
登り口から3km歩くと、星が森と呼ばれる場所に着きます。
弘法大師が厄除けの星供養をしたと言われており、石鎚山の西の遥拝所となっている神聖な場所です。
最近ではパワースポットとして注目されているようですよ。
この星が森からは約600mは下り坂になっていて、その先には横峰寺の山門があります。
まとめ
今回四国霊場第60番札所「横峰寺」への2つの登り口をご紹介しましたが、それぞれの遍路道には全く違う景色が広がっていました。
湯浪からは横峰寺へ最短で行く事ができて、遍路道も綺麗に整備されていますので安心して歩くことができます。
虎杖から横峰寺までは少し距離があって遍路道の状態もあまり良くありませんが、かつての集落跡など人々が暮らしていた名残や歴史を感じることができます。
虎杖近くには現在の石鎚山登山口になっている石鎚ロープウェイが出来るまでに主流だった登山ルート、「黒川道」と「今宮道」があります。
黒川道は登山道の状態がかなり悪く通行禁止になっていますが、かつては多くの登山客が利用していた道です。
霊峰石鎚山や四国霊場第60番札所横峰寺の周辺には、古来より暮らしていた多くの人の歴史が今も多く残されていました。
その歴史を感じることができる神秘的で魅力のある「湯浪」と「虎杖」のご紹介でした。