【丹沢・檜洞丸】深山・西丹沢の盟主をめぐる海から山への自転車登山録~満開のシロヤシオを求めて~【後編】

山紹介

目次

檜洞丸へのコース紹介(つつじ新道)

西丹沢山域の拠点である、西丹沢ビジターセンターを出発し、今回は右回り周回で進みます。
山行後半に現れる石棚山稜の急な下りがコースの核心部になるため、初見の場合は左回りもありでしょう。

距離所要時間累積標高コース上注意
約10㎞約7H
※休憩除く
約1,300mクサリ・ハシゴ・渡渉有
出典:ヤマケイオンライン

登山口(西丹沢ビジターセンター)~ゴーラ沢出合

事前に予想はしていたことですが、いつもの登山に置き換えると、登山口にいながら既に山頂にいるかのような疲労感を感じます。

ビジターセンター周辺には自動販売機やベンチもあるため、ここは十分に休憩をとってから出発することにします。

事故防止啓発のタルチョが架かる西丹沢の登山拠点

車道の十分に整備された状況でも大変なのですから、それ以前は檜洞丸登山には相当の労力が必要だったことでしょう。
いつもであるならば遠く感じる「檜洞丸4.8㎞」の道標も、今日は近く錯覚してしまいそうです。

少し緊張する沢沿いの小さな入口

登山口は小さな沢沿いからスタートとなります。
登山道を入って50mほどは、濡れていて滑りやすい沢底を歩くことになりますが、すぐに乾いた尾根筋へと上がっていきます。

心のこもった看板。ゴーラ沢出合では渡渉が必要となる。

ゴーラ沢出合までは、緑の木々の合間を縫いながら緩やかに高度を上げていきます。
登山口から約1時間、横を流れる沢の音が近くなってくると、間もなくゴーラ沢出合(標高約750m)に到着となります。

清流と新緑のコントラスト、ゴーラ沢出合

本日は水量も比較的安定しており、靴を脱がずとも石伝いに渡渉することができました。水量の多い日に足を滑らせ、残念ながら序盤で靴を水没させてしまった登山者も何度か見かけたことがあります。

ゴーラ沢出合~檜洞丸山頂

ゴーラ沢出合からいよいよ本格的な登りとなる

ここから「つつじ新道」の急登が本格的に始まるため、休憩ばかりですが鋭気を養います。

山頂までの標高差は約850mも残っており、距離は半分弱まで来ましたが、実際はほとんど登っていないようです。感覚的なウィエイトは、この時点でまだ全体の1/3あるかないかといったところでしょうか。

リスタート直後からクサリ場が現れる

「つつじ新道」を始めとする周辺登山道では山岳事故も発生しており、事故防止を啓発するのぼり旗も掲げられています。

東丹沢の主要な山々(大山や塔ノ岳など)と比較をしても、浮石やザレ場、手を使用する箇所が随所に現れ、難易度は全体的に上回っているように思われます。

さわやかな新緑の展望園地

ゴーラ沢出合から約1時間ほど急坂を登っていくと「檜洞丸山頂1.8㎞」の道標とともに間もなく展望園地に到着となります。

緑の繁茂するこの季節は景色が限られてしまうものの、急坂の合間に一呼吸を置くことができる貴重な休憩ポイントです。コーヒーでも淹れながら、心の余裕を忘れないようにします。

ハシゴを超える

展望園地を再出発しますが、まだまだ急登は続きます。

つつじ新道のシロヤシオと大室山(1,587m)

山頂まで「0.8㎞」の道標が出てくると、頭上のシロヤシオも段々と賑やかになってきます。

当たり年の最盛期には”シロヤシオのトンネル”に近い状況ともなり、数多くの登山者のお目当てとして休日は賑わいが見られます。

立ち枯れと檜洞丸山頂

石棚山稜からの登山道と合流すると傾斜も緩やかになり、ここからは”新緑のトンネル”を進んでいきます。

ブナの立ち枯れのため、「深山」の様相はかつてほどではないそうですが、それでも静寂に包まれた山頂は山麓の雰囲気とは異なるものがあります。

気象観測用機器の横を通過し、疲れ切った脚にムチを打ちながら最後の階段を登ると、待ちに待った盟主の頂に到着です。

檜洞丸・青ヶ岳山荘と縦走路で繋がる丹沢最高峰の蛭ヶ岳(中央右奥)

山頂は木々に覆われていますが、山頂東側に少し進んだ青ヶ岳山荘周辺では「蛭ヶ岳」「塔ノ岳」といった丹沢を代表する山岳展望を、山頂北側からは「丹沢主稜」の連山を望むこともできます。

小田原、国府津海岸から約45㎞の道のりとなりましたが、何とか無事に山頂にたどり着きました。

下山:檜洞丸~石棚山稜~箒沢

少し遅めの食事をとりながら色々思うところはありましたが、これは後段「おわりに」でご紹介します。

檜洞丸付近からは下山で利用する「石棚山稜」や、登ってきた「つつじ新道」を合わせ四方向(山頂分岐は三方向)に登山道が伸びています。

各登山道とも三点支持を要する箇所、あるいはクサリを擁する急斜面が現れますので、下山時も気が抜けません。

つつじ新道の分岐を過ぎたあたりから、一層大きなブナが鎮座する稜線を歩いていきます。

途中のシロヤシオも「つつじ新道」に劣らぬほど咲き乱れており、この稜線漫歩にアクセントを添えています。

1時間ほどの稜線歩きを経て、石棚山の先、ヤブ沢ノ頭からは登山口付近にかけてはいよいよ核心部となります。

傾斜は全体的に急で、浮石を伴う痩せた尾根やクサリ場を通過しながら、下山口「箒沢公園橋」まで標高差約700mを1時間以上かけて一気に下っていきます。

下山の終盤は、比較的緩やかな板小屋沢沿いを進んでいく

2ヶ所のクサリ場を通過すると、徐々に板小屋沢の清流の音が大きくなってきます。

尾根筋から沢筋に登山道がつけ変わると、これまで急だった登山道の傾斜も幾分か緩やかになり、河原に腰を掛けて一息をつくことができます。

清冽な水の調べ。また海に戻っていく。

下山口「箒沢公園橋まで600m」の道標が出てきますが、折角なので最後の休憩を取りたいと思います。

人里に降りてきた。長い一日もようやく終わりを迎える。

最後の力を振り絞り、堰堤に取り付けられたハシゴや渡渉を注意深く進むと、まもなく木陰から久しぶりの車道が見えてきます。長かった一日もようやく終わりを告げることとなります。

おわりに

ハイキング、縦走、沢登、バリエーション、雪山、登山用具コレクター云々・・・山の楽しみ方は人それぞれだと思います。

今回、「登山は”登山口からのテーマパーク”を登るレジャー」と捉えることを一旦止め、往年の深山・檜洞丸を感じるべく、人力のみで頂を目指してみることにしました。

設置され年数の経った登山道のベンチ(石棚山稜)

結果、山を取り巻く社会・自然環境が「かつての時代」から変化しているため、いくら距離を人力で稼ごうとも、古の登山者と同じレベルでもって「深山・檜洞丸」を捉えることは残念ながら難しいと感じました。

PIXTA

しかしながら、登山口に至る「街」や源流から流れる「河川」の変化を肌で感じる中で、例えば蛇口をひねれば出てくる水道水が最たる事例ですが、いくら都市を中心とした生活を送っている現代人といえども、生命である以上、依然として山とは切っても切れない関係にあることを身に染みて感じる1日となりました。