【百名山・浅間山】雪の残るダイナミックな活火山と新緑の軽井沢をめぐる”山旅”のご紹介

山紹介

浅間(あさま)山は、長野県佐久地方と群馬県西部にまたがる標高2,568mの活火山で、登山者おなじみの「日本百名山」の一座を担っています。

周辺の「草津白根山」などの山岳とともに上信越高原国立公園に指定された景勝地でもあり、山麓には日本屈指の避暑地「軽井沢」が位置しています。

新緑がまぶしい、5月の浅間山麓・軽井沢

有史以前から始まった火山活動は現在も繰り返されており、2000年以降だけでも約2,000回(※)の活動が確認されているそうです。直近では2019年9月に小規模な噴火があり、一時噴火警戒レベルが「3(入山規制)」まで引き上げられました。

(※)気象庁「浅間山 噴火回数表」による

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その後火山活動は沈静化し、昨年(2021年)8月に噴火警戒レベルが「1(活火山であることに留意)」に引き下げられ、登山者も待望、到達可能な最高地点になる火口付近「前掛山(2,524m)」までの登山道がオープンにされています。

佐久平から眺めた雪形「登り鯉」は、耕作適期の訪れを示す

新緑がまぶしい軽井沢や、春真っ盛りの佐久平からもその雄姿を眺めることができる、残雪の浅間山を編集部にて取材しました。

目次

浅間山登山の概要

浅間山は、どこから登る?

いずれも長野県小諸市側からのアプローチとなり、「火山館コース(登山口:浅間山荘)」「黒斑(くろふ)コース(登山口:高峰高原・車坂峠)」の2コースを選択することができます。両コースは、浅間山のカルデラ盆地に位置する「湯の平」で合流し、最終的には1本の登山道が最高地点「前掛山」に至ります。

浅間山へは、初心者でも楽に登れる?

数字上は、北アルプスの登山道に近い「大変さ」がある

コースタイム、距離、累積標高差、難易度により評価された「信州山のグレーディング」では「4B(1泊以上が適当、登山の経験が必要)」とされ、北アルプスの山々(燕岳や蝶ヶ岳)と同程度にグレーディングがされた2,500m級の高山となります。

山岳(コース)コースタイム距離累積標高差
のぼり
浅間山(火山館コース)9.3時間21.8㎞1,480m
浅間山(車坂峠コース)8.7時間12.1㎞1,300m
燕岳(合戦尾根)7.8時間9.8㎞1,420m
高尾山(ケーブルなし)3.8時間7.7㎞460m
出典:信州山のグレーディング

途中に宿泊可能な施設・幕営地(テント場)もなく、日帰り登山としては比較的長いコースを歩き切ることのできる体力・経験と登山道状況に応じた登山装備、早出早着といった登山の基本が大切になってきます。

山麓では春が訪れる5月上旬に取材をしましたが、浅間山周辺では数日前に降雪も見られたようです。実際に歩いてみると残雪がみられる場所も多く、軽アイゼン類やストック(トレッキングポール)の携行推奨が公式(小諸市)からも呼びかけられていました。

https://www.city.komoro.lg.jp/soshikikarasagasu/sangyoushinkoubu/shokokankoka/2/1/1/2403.html

浅間山(前掛山)・車坂峠コースの紹介

今回は、高峰高原・車坂峠から出発する「黒斑コース」を取材しました。

このコースの特徴は、何といっても標高2,000mから登山を開始することができる点にあり、随所に広がる好展望地とともに爽快な尾根歩きを楽しむことができます。

トーミの頭付近より望む「湯の平」と「前掛山」

車坂峠登山口へのアクセス

マイカー

上信越自動車道・小諸ICより浅間サンライン(長野県道80号)、チェリーパークライン経由で約18km

※群馬県の嬬恋・草津方面から車坂峠に至る林道「鳥居峠車坂線」は現在通行止となります。”スマホの経路検索”では出てきてしまうので注意が必要です。(2022年5月現在)

駐車場

高峰高原ビジターセンター駐車場が登山者利用可となっていますが、出入庫に時間制限(8:00~17:00)があります。

時間外の場合、登山口から徒歩約10分のアサマ2000パークスキー場の一部区画が登山者駐車場として開放されていますのでこちらを利用することになります。

車坂峠登山口~トーミの頭(第一外輪山)

スタートとなる車坂峠にはベンチや登山情報板が設置されており、すでにカラマツを中心とした亜高山帯の景観が広がっています。朝の冷たい空気が、これから始まる登山への気持ちを引き締めてくれます。

ひんやりとした朝の車坂峠

第一外輪山「トーミの頭」までは、尾根伝いの「表コース」と、巻き道沢伝いからの「中コース」を選択することができますが、本日はより易しい「表コース」を選択することにします。

まずは標高差250mをなだらかに登っていきますが、適度に現れる展望地からは佐久平の市街地、残雪をまとった八ヶ岳や中央アルプスの遠景を眺めることができます。

圧雪路はすべり止めがあると歩きやすい

標高2,150m付近からは登山道上の残雪が目立って多くなり、夏道がほとんど覆われた圧雪路となります。

ここでは軽アイゼン・チェーンスパイクなどのすべり止めが非常に有効です。一方、下山時刻の午後は雪が緩み(シャーベット状)、トレースを外すと膝上まで踏み抜くこともあります。

噴火避難用のシェルターを過ぎると、まもなく「槍ヶ鞘」の小ピークに到着します。

ここからは、本日の目的地である浅間山の核心、「前掛山」の姿を始めて望むことができます。ここからは5分ほどで「トーミの頭」のピークに到着となります。

中央付近のトーミの頭と、姿を見せる前掛山

トーミの頭~湯の平口分岐~賽の河原分岐

トーミの頭を出発すると、すぐに黒斑山方面への登山道との分岐点となります。ここでは「湯の平口分岐」を目指し、外輪山壁につけられたつづら折りの急坂(草すべり)を約250m下っていくことにします。

「草すべり」下部。上部に比べ道は安定する。

ぬかるんだ急斜面が続くため、下りの場合にはストック(トレッキングポール)を有効活用しながら、下りの基本歩行姿勢(足裏全体を使いながら、上半身の重心が前に出すぎないよう意識する)を大切にしたい区間です。

谷側への転倒は転落事故につながる恐れもあるため、万一バランスを崩した際には山側を意識すると大きな事故の防止になると思われます。

眺望は申し分なく、前方には第二外輪山である前掛山の雄姿が、眼下には萌黄色になり始めた草地とまだ冬のカラマツ林が美しく広がっています。

ちなみに、取材日の「ガトーショコラの砂糖」は、残念ながらかなり溶けてしまっている状況でした。

「賽の河原分岐」よりも先は、噴火警戒レベルが「1」でないと入山できない。

「草すべり」を小一時間ほど下り樹林帯に入ると、まもなく「湯の平口分岐」に到着、浅間山荘口からの「火山館コース」に合流します。

浅間山荘口方面に5分ほど下ると「火山館」があり、お手洗いや無料の休憩施設を利用することも可能です。ちなみに、コース上のお手洗いは「火山館」1か所となります。

浅間山登山のオアシス「火山館」

「湯の平口分岐」からはしばらく林間の緩やかな道となり、20分ほどでJバンド方面の分岐「賽の河原」に到着となります。ここからは、黒い溶岩が輝く前掛山「本体」への登山となってきます。

賽の河原分岐~前掛山(第二外輪山)

ここから山頂までの標高差は約400mを残すところになります。カラマツの背丈も徐々に低くなり、大きな噴石の落下による小さなクレーターも所々見られるようになります。

カラマツの丈が身長大になってくると、森林限界も近い

登山道はすでに森林限界をこえており、富士登山よろしく、小石とこぶし大の溶岩が多くみられることから、下山時の浮石には特に気を付けたいところです。また、登山者が多い一方、残雪により登山道幅が狭いところもあるため、お互いに譲り合って登ることが大切です。

シェルターは活火山登山ならではの景色

山頂までの標高差が約50mの地点で登山道は南側に折れ曲がり、荒涼とした溶岩が広がる第二カルデラ底に到着します。ここには噴火避難用のシェルターが設置されており、突き刺す風をしのぎながら一息つく登山者の姿が多くみられました。

最後は、カルデラ縁の尾根伝いの緩やかな登山道を登っていき、シェルターから30分ほどで前掛山山頂に到着となります。

山頂からの展望は360度にわたり、その展望に申し分はありません。

遠くには、まだまだ雪の残るアルプスの連なりも見えますが、やはりハイライトは眼前に鎮座する噴火口「釜山」で、火山ならではの迫力を感じることができます。

山頂は溶岩の卓越するダイナミックな景観が広がる

山頂直下の崩壊した断崖上にはイワツバメが群れで営巣しており、活発に活動する火山の火口付近でもたくましく子育てをしているようです。

大きな風切り音とともに、一瞬で視界から消えるほどの高速で山麓方面に滑空していくその様は、市街地で人間に対して見せるその姿とは異なり、生命が持つ潜在能力を余りなく発揮している躍動感あふれる「ツバメ」そのものと言えるでしょう。

下山(復路)

復路も同じ経路をたどって帰ることにします。前掛山の下りからは右手に冠雪した草津白根山や嬬恋村の絶景が、前方には春霞につつまれた四阿山を望むことができます。

広がる景色を見ながら60分弱、噴火警戒レベル2でも入山可能な「賽の河原」分岐まで戻ることができます。

浅間山の「カルデラ底」とJバンド・黒斑山方面を望む

帰りのポイントは、トーミの頭までのきつい登り返しとなるでしょう。

コース後半の疲れた足に鞭を打ちながら、前方にそびえるすべりやすい外輪山壁の急坂を1時間強登り返すことになります。朝の冷え込みとはうってかわり、午後の高い日差しがジリジリと照りつけ、額には汗がにじんできます。

左上の岩峰(トーミの頭)を目指して、斜面を登り返していく

息を切らしながらも、ようやく稜線に登り返し振り返ると、前掛山の姿がかなり小さくなってきました。ここからは1時間ほどで車坂峠に至り、長かった浅間山登山もようやく終わりを迎えます。

下山後

翌日、心地の良い疲労感の中、浅間山とゆかりのある地を巡ることにしました。

浅間山と軽井沢

古く江戸時代には、信濃回りで江戸と京都を結ぶ五街道の一つ、中山道(なかせんどう)の宿駅として栄えた街が軽井沢でした。

また、隣の「信濃追分」付近は、善光寺(長野市方面)や高田(上越市方面)へ伸びる北國街道(ほっこくかいどう)が分かれる交通の要衝地でもあり、大変な賑わいがあったそうです。

賑わいが戻ってきた旧軽井沢

その後、明治時代に入り西洋人が避暑地として軽井沢の価値に注目、日本の山岳を世界に紹介した「ウォルター・ウェストン」氏も、槍ヶ岳を目指した登山の際に起点とした場所が軽井沢であり、その際最初に登った山が浅間山と言われています。

登山愛好家にとっても、軽井沢は”山”とゆかりのある地といえそうです。

浅間山の自然を知る

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今から約240年前の江戸時代の浅間山噴火により、浅間山北麓の群馬県では大きな被害を受けました。このような大地の活動と人間社会の関係を学ぶことができる「浅間山麓ジオパーク」には、「鬼押し出し園」をはじめとする数多くの観光スポットが位置しています。

https://mtasama.com/

日本人の”癒し”、温泉も大地のエネルギーのおかげ

おわりに

山麓の軽井沢や新幹線からも雄姿を望むことができる浅間山は、登山に興味を持たれない方でも「一度は名前の聞いたことのある山」ではないでしょうか。

浅間北麓の台地から浅間山を望む

今回は標高2,000mの車坂峠から浅間山の山頂を取材しましたが、市街地の恵まれた環境とは異なる大自然の中、丸一日をかけてようやく往復のできる山であることがわかりました。

「初めての登山」では登ることが難しい山かもしれませんが、他の山での経験を積まれてから、ぜひ上信国境に鎮座する名峰に挑戦してみてはいかがでしょうか?