【雪山入門】登山道の特徴を把握して雪山に強くなろう

山紹介

12月も半ばに入り、本格的な冬山シーズンを迎える時季となりました。

冬山というと北日本、中部山岳や日本海側の豪雪地帯を思い浮かべる方も多いかと思いますが、本記事では都市圏郊外の1,000~1,500m級の山岳地域・丹沢にスポットにあてて、冬季の降雪についてご紹介をしていきたいと思います。

冠雪した大山越しに望む、湘南海岸・江の島

太平洋岸の山域は「雪とふれあうための入門編」とされることも多いのですが、降雪が安定しない当山域では、積雪状況やコース取りにより「冬山登山の入門」と一般的に言われている北八ヶ岳などの山域同様、厳しい環境での登山となる場合もあるので、十分な準備が必要となります。

首都圏の降雪の時期

都市部で春を迎える頃。3月下旬の降雪。

山域の降雪のハイシーズンは1月~3月と言われていますが、降雪の条件がそろえば12月や4月といった時期にも積雪が見られます。

SNSによるリアルタイムな情報やビジターセンター・山小屋等の発信する公式情報も収集し、安全登山につなげましょう。

過去には昭和29年11月末、丹沢主脈を縦走中の高校山岳部の複数のパーティーが、同じ風雪に見舞われ遭難死亡するという痛ましい事故も発生しているため、雪山では夏山よりも「もしかしたら」の準備はより重要になります。

天気図でみる降雪の条件

 山域で積雪が発生しやすい地上天気図。
太平洋岸の南側を低気圧が通過。(出典:気象庁)

日本列島上空の寒気が南側まで張り出した状態で、太平洋岸を東進する温帯低気圧(『南岸低気圧』)の通過が降雪をもたらすケースが多いため、中部山岳や日本海側の降雪要因とは根本的に異なります。

このため、低気圧が通過すると一晩で山の姿が一気に変わるケースがあるのが山域の降雪の特徴となります。

南岸低気圧についての解説(気象庁リンク):気象庁|予報が難しい現象について (jma.go.jp)

いつまで雪は残る?

降雪後の丹沢山山頂

よほどの豪雪にならない限り、降雪が根雪となり春先まで残ることはまずないといって良いでしょう。

冬季においては、低気圧の通過による積雪と晴天による融雪を繰り返す状況になるため、シーズン通して雪量は安定しません。

積雪した場合であっても標準的には10~50センチメートル程度となりますが、平成26年の東日本豪雪の際には塔ノ岳・鍋割山山頂付近でも100㎝超の積雪となり、南斜面の大倉尾根でも春先まで残雪が見られる場所もありました。

降雪から日数が経過し、ほぼ雪が少なくなった登山道。トレースは凍結している。

泥、凍結、雪、全部あり

降雪中の稜線付近(写真:大倉尾根・塔ノ岳山頂付近)

場所、降雪量によりもちろん異なりますが、冬季であっても山麓の登山口から雪が張り付くことは多くなく、稜線までのアプローチ途中で雪が現れるパターンが多くなります。

低気圧通過後はいわゆる「西高東低」となり晴れることも多く、日中の気温上昇により南側斜面の登山道(特に入山者の多い表丹沢方面など)は午後には融雪が進み、標高の低い場所を中心に登山道が「田んぼ」のような泥道となるケースもよく見られます。

同じ登山道でも、稜線と山麓では状況が大きくかわる(写真:大倉尾根・標高600m付近)

一方で、気温が低い主稜線付近では融雪ペースも遅く、後述の圧雪路・凍結路になることがあるため滑り止めの用意が必要となってきます。

首都圏の雪山に必要な装備

このように、首都圏の山や丹沢においては標高が低い部分は凍結や泥、稜線や標高が高い部分は積雪になっているケースがあるため通常の登山装備に加えて以下の装備を準備しましょう。

  • ダウンやメリノウールなどのベースレイヤー
    • 保温性能、吸水性能が高いものを選ぶ
  • 保温ボトル
    • 冬季はペットボトルなど保温性能がないボトルは凍ります
  • チェーンスパイクか軽アイゼン(6本爪)
  • ゲイター
    • 積雪した雪が靴に入り凍傷の原因になります)

冬の登山道の詳細

圧雪路・凍結路

滑り止めがないと歩行が困難な圧雪凍結路(中央の白いライン)。

降雪後、トレースの圧雪や日中の気温上昇により融解と凝固を繰り返してできた凍結路になります。

爪のあるアイゼンでも問題はないですが、木製の階段をはじめとした木道には積雪が無いこともあり、着脱が容易で歩き方も無雪期と大きく変わらないチェーンタイプのアイゼンが非常に有効です。

鍋割山~塔ノ岳の鍋割山稜や丹沢主脈などの稜線部で多いケースとなります。

隠れた凍結路

土の下に凍結路が隠れている。乾燥した砂の場合はよりスリップしやすい。

凍結箇所に砂がかぶり、特に下りの場合は気が付かないで上を歩くと転倒の恐れがある状態です。

見た目には無雪期登山道と同じであることからトラップ的な要素を含んでいるといえます。

場所によってはこの状態が登山道幅いっぱいに広がり、前を行く登山者が転倒、自分も挑戦して転倒・・・となるケースも見られていますので、「怖いな」と思った場合は、多少面倒でもアイゼンを利用するようにしましょう。

新雪路

トレースのついた雪道を縦走する登山者(日高付近)

トレースあり

トレースはすでに先行者が歩いた跡が雪についた状態です。

降雪直後かつ入山者数が比較的多いエリア(塔ノ岳大倉尾根、鍋割山、大山など)に該当します。

ほぼ夏道にそってトレースが形成されており比較的歩きやすい状況ではありますが、滑り止めは必携となります。

降雪量次第では首都圏近郊とは思えない雪の風景が拡がっていますので、普段とは異なる冬の登山を楽しむには最も良いコンディションです。

トレースは間違った登山コースにつながっているケースもあるため、夏山以上にマメに地図を確認しましょう。

トレースなし

先行者のいない主脈線の吹き溜まり(蛭ヶ岳付近)

降雪直後かつ入山者数が少ないエリア(丹沢山以西の丹沢主脈や主稜線)が中心となり、状況は積雪量によりめまぐるしく変化します。

エスケープルートのない山域奥地も含まれるため、体力や時間管理を含めたある程度の経験者向きの状況です。

膝下程度から股下、吹溜りは所により腰あたりまでのラッセルを強いられることもあり、こうなると健脚者でもコースタイムの1.5倍以上の時間を要する場合があります。

困難を伴うもののツボ足でも対応は可能(状況次第ではワカンがあった方が便利)ですが、バランスと推進力を得るためのストック(トレッキングポール)は必携となります。

経験のある山から行こう

夏道の記憶がない場合にはルートファインディングが必要となる。

トレースの無い初見の登山コースは、読図やGPSなどの位置確認が非常に重要になるため経験者向けのルートとなり、迷い込まないようにしましょう。

融雪路/ぬかるみ道

塔ノ岳~蛭ヶ岳間(特別保護地区指定)にて見られるケース。右側のトレースはぬかるみを避けた結果ついたもの。

夜間に地中の水分が凝固、日中気温が上昇することで融解のサイクルを繰り返し、登山道が「田んぼ」のようなぬかるみ状況になる場所があります。

相当量の泥はねとなりますので、汚れ防止の観点からも「ゲイター」が活躍します。

ぬかるみを避けるために登山道を逸脱してしまうと、そこに新たなトレースができ、登山道拡大の原因となってしまいます。

心の葛藤とはなりますが、登山者一人ひとりの配慮が必要となってきます。

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交通機関の乱れと登山計画

多くの登山口へは公共交通が運行されているため、登山口までの「足」には比較的困らない山域です。

しかし、地域柄多雪は想定されていないため除雪体制は弱く、バスが区間運休となる場合があります。

マイカーの場合でも、山岳道路が積雪により通行止めとなる場合もあるため注意が必要です。

これらの場合は徒歩区間が増えますので、日の短い冬季は登山計画を柔軟に変更する必要があります。

蓑毛集落。お馴染み「ヤビツ峠」への交通規制が敷かれた場合はここからの入山となる。
バス路線目標となる山よくある折返し運転徒歩の場合のコースタイム等運行会社

秦野駅~ヤビツ峠
大山(イタツミ尾根経由)/塔ノ岳(表尾根経由)秦野駅~蓑毛で折り返し運休の蓑毛~ヤビツ峠間は登山道約70分※、標高差約400m神奈川中央交通 (kanachu.co.jp)
TEL:0463‐81‐1803

新松田駅~西丹沢ビジターセンター
檜洞丸(つつじ新道)/畦ヶ丸新松田駅~中川もしくは新松田駅~箒沢で折り返し中川~西丹沢間は県道約4.5km、箒沢~西丹沢間は県道約1.5㎞路線バス – 富士急湘南バス (syonan-bus.co.jp)
TEL:0465-82-1361

※無雪期のコースタイムとなります。

マイカー交通情報
登山口までの山岳県道情報日本道路交通情報センター:JARTIC

冬季の山域比較(北八ヶ岳・蓼科山と丹沢・丹沢山)

北八ヶ岳・蓼科山と丹沢・丹沢山 の概要を比較してみました。

ひとくくりに「冬山の入門」と言われる山域であっても、山域それぞれの特徴が見られます。

PIXTA
山名無雪期コースタイム(往復)※距離と累積標高差(往復)※気温のめやす登山道の状況
蓼科山:2,531m
(女乃神茶屋)
約5時間約6km、約830m山域の気温は低い。常時氷点下であることも珍しくない。登山道はほぼ常に雪で覆われ(圧雪路等)、夏道は見えない。

丹沢山:1,576m
(大倉)
約9.5時間約18km、約2000m
行程は長く、体力を要する。
日中は0℃以上になる場合もある。登山道の積雪状態は降雪量、積雪日からの日数により大きく変化する。降雪が少ないと夏道となる。
                               

※「ヤマケイオンライン」による

おわりに

冬山シーズンを迎えるにあたり、首都圏郊外の「日帰り登山」の対象となる1,000~1,500m級山域での積雪傾向および対策を丹沢山域の事例をもとに紹介いたしました。

雑誌やメディアで多く紹介されている多雪地域の冬山とは異なり、太平洋岸山域での降雪は寒気の流入と南岸低気圧の通過により集中的にもたらされ、その時の積雪量とその後の気温変化により積雪の状況は変化しやすい傾向にあります。

登山者も多くトレースのつきやすい人気コースでは、雪をまとった山を楽しめる最高のコンディションとなる一方で、降雪直後は無雪期以上のコースタイムや体力を要するため無理をしない山行計画が大切になってきます。

また、山域奥地などではコースの取り方によってはトレースが存在せず、多雪地域の冬季登山に近い状況となるケースもあります。万全な計画と準備の上、入山をお願いいたします。